鳥獣奇譚  ぬばたまの 6



今日は風がぬるいなぁ。

雨戸がガタガタいって気になるじゃろう。なぁに、あとでしっかり抑えるから、みわは心配せんでいい。

さ、布団に入ってな。昨日の続きじゃ。


あのことが縁でな、男神さんと、北山の女神さんは親しくするようになった。男神さんの吹く笛の音でな、臆病な北山の動物達が巣穴から顔を出すくらい、穏やかな時間を二人は過ごした。

しかしな、面白くないのは南山の女神さんじゃ。

いつもそばにいて、美しい花で男神さんを喜ばせていたのは自分なのに、と悔しがった。

風に乗って小さく聞こえてくる笛の音は、聞くまいとしてもどうしても耳を犯す。

南山の女神さんは胸に、黒い炎が付くのを許してしまった。

目には見えないが、いずれ自らも飲まれてしまうと言う、危険な炎じゃ。

それからと言うもの、南山には、鮮やかじゃが毒々しく寄る者を惑わすような妖しい花々が咲き乱れるようになってしまったと。

秋も深くなり始めた頃。

その日男神さんは、天の神さんに呼ばれて朝から遠くの地に行っておった。

北山のあたりもひっそりとして静まり返っているようだ。

よーく耳を済ますと、冬支度に忙しい動物達の立てる音が、其処彼処で賑やかなくらい聞こえてくるのだが……。

もう大部分が、黒い炎で包まれてしまっている南山の女神さんには、そんなもの、聞こえはしなかったのよ。

南山の女神さんは、黒い水蜘蛛に姿を変えてな、自分の山の頂きから北に向く風に乗せて糸を吐きだした。

糸の先端が上手く北山の裳裾に絡まったのを確かめると、その糸を伝って移動をはじめたんじゃ。

銀色の糸を滑る水蜘蛛はな、程なくして北山に辿りついた。

カチカチと歯が鳴ったのを、熱くなった頭で聞いた。

その頃。

北山の女神さんは小川で、魚達の産卵を助けるために、烏貝になり水の淀みを拵えているところだった。

春になり、稚魚がまたこの豊かな川で大きくなれるように、祈りを込めて産卵を見守っておった。

だからじゃろう。

水中から忍び寄る八本の脚に、気付かんかったのは。


おぉ、みわや。怖がらせてしまったかね。

ほら、風も止んだみたいじゃ。

続きはまた明日。

ようおやすみなぁ……。



……続く

夜半の月

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