鳥獣奇譚  ぬばたまの 4



さぁてさて、昨日の続きじゃったな。

何処まで話したか……そうそう、烏貝の北山の女神さんが、男神さんの懐に入れられたとこまでな。


ほら、ちゃんと布団は肩までかけんと。

焦らんでも、逃げやせんからの。

昔々の話じゃて。


北山の女神さんはな、そりゃあ驚いたそうな。

だってそうじゃろう?

ひんやりした明るい水の中にいたものを、目覚めた時にはあったかくて薄暗いところにおったんじゃもんな。

あたりを見回してみても何も見えず、かわりに腹に響くような大きな音がする。どんどんどんと、規則正しく。

うん、懐に入ってるからな。心の臓の音が響くんじゃ。

どんどんどん。どんどんどん。

じゃが、移動していることに気付いた北山の女神さんはな、これは大変と、出口を探した。

隙間を見つけてエイっと飛び出し、元の身体に戻ったと。

モゾモゾと懐が動き、何事かと歩みを止めた男神さんの目の前に、突然漆黒が踊った。

長く艶やかな黒髪を揺らし振り向いた北山の女神さんの美しさに、男神さんは思わず息を飲んだんだと。

無礼を詫びる男神さんに、ひっそりとした笑顔を返してな。

「いえ、あの様なところではしたなく寝入ってしまった私が悪いのです。私は北山の女神。動物たちもみな待っていることでしょう。帰していただけましょうか。」

女神さんの話が終わる前に、男神さんはヒョイとその身体を抱えてな、韋駄天の足で、もと来た途を引き返した。

どんどんどんと、さっきよりは少し離れたところで鳴る音を、女神さんは聞いた。

それは、男神さんの音か、それとも己の胸の音か、女神さんには分からなかったんだと。

どんどんどん。どんどんどんとな。


みわ、みわ。

おぉ、寝てしまったね。

今晩は冷えるから、布団は蹴ったらいかんよ。

ようおやすみなぁ………



……続く

夜半の月

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