鳥獣奇譚  うぐいす 9



12月24日。

クリスマスイブ当日。

意を決して、朝から美雪にメールを入れているが、返信がなかった。

始めは、無視されていることに腹が立った修也だが、先頃の美雪の様子を思い出し、だんだん心配になってきた。

電話も出ない。

念のため康子にも頼んだが、そちらにも返信はなかった。

修也は、直接美雪の家に訪ねることにした。

実家住まいの美雪の家にはもう何度も行っている。

自分も行くと言う康子と待ち合わせて、美雪の家に向かった。

インターホンを押してからの時間が、とてつもなく長く感じられた。

はーいと返事をして出てきた、美雪の母親の様子に特に変わりは見られない。

「あの、美雪は!」

勢いづいた二人に多少驚きながらも、母親は奥に向かって叫んだ。

「美雪ー!修也くんと康子ちゃんが来たわよー!」

「えー、もう来たの?」

とエプロン姿で出てきた美雪に、二人は呆然とした。

「何よ!なんでもないじゃん!」

ホッとした顔で修也の背中をバンバン叩きながら康子が言った。

「もうね、修也がさ、美雪と連絡取れないって大騒ぎしてさー。」

見ると修也は憮然とした顔をしている。「何でメール返さないんだよ!」

と母親の前と言うことを忘れて、修也は美雪をなじった。

美雪が口を開くまえに、

「あら~、お熱いこと!」

と母親に冷やかされ、急に二人は口を噤んだ。

「ねぇ、お母さんにちょっと持ってってくれない?」

と康子は美雪の母親に誘われ台所へ消えていった。

玄関に残された二人。

「…ごめん、携帯、上手く使えなくて…部屋に置いたままだったの。」

美雪の小さな声を聞いた修也は一瞬ギクリとしたが、敢えて表情を和らげ、

「いや、俺の方こそ勝手に早とちりして…その…ごめん。」」と言った。

「ちゃんと眠れるようになったか?」

そう言って美雪を見ると、先週よりもさらに痩せて、顔色も優れない。

大丈夫だよぅ、と見せる笑顔はいつものままだが、どこか無理やりな感じもした。

修也はそれが自分と喧嘩したせいだと、思い込むことにした。

今更美雪を失えない。

「夕方、また迎えに来るから。」

そう言って、修也はきびすを返した。

計画は決行だ。今夜指輪を渡しプロポーズする。

そして新年の挨拶がてら、正式にお互いの実家を訪ね合うのだ。

不安を振り払うように大股で歩いた。

美雪は誰にも渡さない。

――どこかで、鶯が鳴いた気がした。



……続く

夜半の月

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