鳥獣奇譚  うぐいす 7



12月16日。

修也と美雪は久々に遠くのショッピングモールまで、買い物デートに来ていた。

来週のクリスマスのプレゼントを買う為にだ。

修也は密かに、クリスマスをプロポーズの日にしようと目論んでいた。

高校二年の頃から付き合って、もう8年が経つ。

そろそろいいだろう、と言うのが半分。あとの半分は、最近美雪がやけに世話になってる、基之進やらへのヤキモチだ。

「俺もちっちぇな。」と漏らした言葉は康子しかしらない。

良く眠れないせいか、日に日にやつれていく美雪が心配なのもある。

賑わう街で買い物も気晴らしになっていいだろう。

あちこちブラブラ見て回りながら、

「クリスマスにネックレスでも、買ってやるよ。」

と、修也は美雪をジュエリーショップに引っ張りこんだ。

「美雪、どんなのが欲しい?」

若干の甘さを声に込めて、修也が美雪に尋ねた。

しかし美雪がしばらく考えてからつぶやいた物に、修也は言葉を失った。

「……私、簪が欲しい…」

「おい、美雪!」

修也の大声にハッとした美雪が慌てて言う。

「あ、ごめ……。なんかボーッとしちゃって。普通のネックレスでいいよ!いつも着けてたいから、あんまり派手じゃないやつね。こう、チェーンの細い方が肌なじみいいから!」

ニコッと笑ういつもの様子にホッとしつつも、修也はイラつきを自覚していた。

フードコートに場所を移した二人は、気まずくカフェオレの飲んだ。

「なぁ、美雪。ちゃんと話そうぜ?それ、本当に夢のことか?浮気とかしてんじゃねぇの?」

パッと顔を上げた美雪の驚いた目と、修也の視線がぶつかった。

そうだ、俺を非難しろ。

ヒドいよ修也、ただの夢なのに、疑うなんて。

頼むからそう言って、いつもみたいに俺を睨んでくれ。

修也は強く、強く望んだ。

けれど、美雪は力なく眉を下げると、

「夢だけど…ごめん」

とだけ言った。

突然修也を、目眩のするような激しい怒りが襲った。

美雪にか、自分にか、それとも基之進にか。

誰に怒っているのかもよく解らない、業火に身を焦がした。

「そうかよ。もういいよ!」

修也は自分の荷物をぐしゃりと掴むと、美雪を置いてフードコートを後にした。

怒りを滲ませた背中はもう、遠ざかってしまった。

涙も出ない。

うまく考えることができない程、疲れているのだ。

美雪はしばらく動けなかった。



……続く

夜半の月

書くことの衝動に翻弄される、こっつんの小説サイトです。

0コメント

  • 1000 / 1000