風の、冷たい夜でした。
地の底から這い上がるような冷気に、板張りを歩く裸足の足首をぎゅっと掴まれるような。
それでいて、まとわりつくような闇の濃さ。
手燭も持たずに来たことを後悔しながら、しのは急いで寝所に向かっておりました。
月にかかる雲も早風に乗りせわしなく形を変えているようです。
明かり取りの障子が、月光を淡く透かし床を照らしておりました。
ふと、しのは呼ばれた心持ちがし、障子を薄く開けました。
そこには、程よく手入れの行き届いた庭が広がっています。
師走の庭は命の迸りを隠し、すっかり葉を落とした木々が寒空に枝を晒しておりました。
そんな中で、しのには、梅の木の一枝がぼんやりとした光を纏っているように見えました。
まるで花が咲いているかの様。
今は師走、梅の季節にはまた早い。
はて面妖な、と、しのは障子を開け放ちました。
するとその刹那、悪戯な雲が月を隠してしまいました。
薄闇の下で黒々と冴えるは梅の枝。
その先端には、確かに光が灯っておりました。
「どうか、なさいましたか?」
「!!」
急な声にしのが慌てて振り向くと、手燭を掲げた女中頭がこちらを見ています。
「…今、その枝が、」
言いかけて再び庭を見ると、何時もと変わりない庭が月明かりに浮かんで見えました。
「…枝、ですか?」
「いえ。何でもないの。もう休みます。」
そう言ってしのは女中頭の手燭に導かれ寝所へと歩いて行きました。
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薄いカーテンから差し込む朝日に、美雪は跳ね起きた。
ヤバい、寝坊した!ったく、修也のせいだからね!!
と、昨日喧嘩した恋人に毒づきなから、慌てて洗面所に駆け込む。
あまりムシャクシャしたので寝る前に少しお酒を飲んだ。
少し顔が浮腫んでいる気がする。
鏡に向かってしかめっ面を作ってから、美雪はコンタクトレンズを嵌めた。
夢を見たことに気付いたのは、出勤途中だった。
なんか、全体的に暗かったよね。夜とか?それに割と時代がかってたような…
良く覚えてないけど。…まぁ、いっか。
カーラジオからはユーミンの曲が流れている。
口ずさんでいるうちに美雪の思考は、来週の忘年会の事に移っていった。
12月は忙しい。クリスマスや、お正月の準備もある。飲み会の予定も目白押しだ。
ウキウキと美雪は車を走らせた。
……続く
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