あれはいつだったか。
確か小学校の低学年くらいだったと思う。
クリスマスの朝、起きたら枕元にあるはずのクリスマスプレゼントがなかった。
一気に目が覚めて、方々探した。
まだ小さい弟の部屋にも、居間にも、玄関にも、バスルームにもなかった。
釈然としないまま両親に部屋に駆け込んでぶつぶつと文句を言う私の頭を、母は胸元に抱え込みまぁまぁ、となだめる。
今思うと、あれは絶対(しまった!忘れてた!)という顔を私に見られないようにしたのだろう。
あの時母親は何と言って私を落ち着かせたのだっけ?
胸いっぱいに吸った母親のパジャマの匂いを懐かしく思い出して、おなかの底がくすぐったくなる様なクスクスとした笑いがこみ上げる。
そうそう。
「あなたのお願いしたプレゼントが大きすぎて、きっとサンタさん、うちの煙突から入れないのよ。袋、引っかかっちゃうのね。今日の夜は窓を少し開けとこう?」
私が幼い頃住んでいた家に煙突なんてなかったのに、どこの家にも当然あるものだと思っていたのだ。
おそらく私の右手を捕えるように握っている、私の小さい息子も。
「煙突、結構小さいね。」
息子の背丈に合わせるようにしゃがみ込み、斎場の屋根を見上げた。
微かに漂う線香の匂いに、柔らかい花の香りが混じる。
母が今、煙になり空へ登ってゆく。
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